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検証「諫早湾干拓事業」
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諫早湾干拓完工式に対する抗議声明
  ――諫早干潟緊急救済本部・東京事務所


 2007年11月20日に行われた諫早湾干拓事業の「完工式」に対し、諫早干潟緊急救済本部と同東京事務所は同日、以下の抗議声明を発表しました。


2007年11月20日

諫早湾干拓「完工式」に対する抗議声明

諫早干潟緊急救済本部
諫早干潟緊急救済東京事務所

 九州農政局と諫早湾干拓事務所が、11月20日に諫早湾干拓事業の完工式を行うことに対し、私たちは強く抗議する。いったい誰がこの完工式を心から祝えるのか、私たちにはまったく理解できない。

 かつて諫早干潟は日本有数の渡り鳥の飛来地であり、希少種も含む多様な生物が生息する国際的にも重要な湿地であった。干拓事業が干潟を消滅させたことは、地球規模の生態系に打撃を与えた。
 干潟の消滅は魚類の産卵・生育の場も消失させ、潮受け堤防の建設による潮流の鈍化は赤潮や貧酸素水塊の頻発をもたらした。有明海の漁獲量は工事開始以降、減少の一途をたどり、今夏も諫早湾内ではアサリやカキの大量死が発生して大きな問題となった。2000年に大凶作に見舞われたノリ養殖は、その後も不安定な状態が続いている。有明海全体の漁業環境は悪化する一方であり、沿岸の漁業者は困窮の極みにある。

 干拓地での営農は、当初の目標であった入植者への干拓農地の売却が見込めず、長崎県が農業振興公社を通して土地を買い取り、それをリースする形でなんとか入植者を集めたという格好だ。
 農業振興公社は土地取得のために、全国土地改良資金協会と農林漁業金融公庫から資金を借り入れ、さらにその返済のために県から貸し付けを受ける計画である。県への返済は約百年後の2105年までかかるという、まるでローン地獄に陥った多重債務者のような状況である。
 金子原二郎長崎県知事は、このような常軌を逸したスキームを導入したことを、国等からの特別の支援を取り付けた「手柄」であるかのようにコメントしたが、冷静に考えれば、長崎県民にとっても、国民全体にとっても、返済の見込みのない借金を押しつけられるだけの話である。およそ、正気の沙汰とは思えない。
 一方で、県の公金支出差し止めを求める裁判が、12月17日に長崎地裁で判決を迎える。営農計画の撤回が求められている裁判の判決を前に、このような完工式を開催することは、入植予定者に対しても無責任としか言いようがない。

 営農計画の中身についても、農業用水となる調整池水質の悪化、大規模農業と有機農業の矛盾などといった問題が山積し、果たして計画通りに実現できるのか、はなはだ疑わしい。仮に営農が順調に進んだとしても、農作物の流通量増加による市場価格の低下に、周辺の農家は危惧の念を抱いている。

 唯一、祝賀気分に浸っているのは、干拓事業で防災対策が強化されたと安堵している諫早湾周辺の一部の住民かもしれない。しかし、潮受け堤防の建設と、調整池の水位管理で発揮される防災効果とは、高潮対策と、若干の排水改善効果だけであることを冷静に理解する必要がある。
 かつて、諫早湾干拓事業が完成すれば「枕を高くして寝られるようになる」と宣伝されていたが、現在でも、諌早大水害のような大洪水が起これば、市街地の浸水は避けられないし、諫早湾閉め切り以降も、集中豪雨時に内水氾濫がたびたび発生したように、排水改善の効果も限定的である。諫早湾干拓事業による「防災効果」の宣伝を信じることは、実は、本質的な防災対策を遅らせることにしかなっていない。
 さらに周辺住民には、調整池の水質改善のために自治体が進めている下水道整備などの対策費が、税金や個人負担分として重くのしかかることになる。干拓工事で一時期は潤っていた地域の土建業者も、地域経済が沈滞したまま工事完了とともに取り残されることになるだろう。

 以上のように、諫早湾干拓事業の現状や内実をきちんと理解するなら、この完工式を祝える者は誰もいないはずである。手前勝手に完工式を行う国や県の姿勢こそ、事業計画段階から一貫して変わることのなかった「はじめに工事ありき」の姿勢と言えよう。
 工事は終わったとしても、干拓事業のもたらした問題は何一つ解決されていない。それを自覚しているからこそ、農水省も、長崎県も、完工式を急ぐのだろう。地元関係者からは「事業はもうここまで来たのだから、そっとしておいて欲しい」という本音も聞こえてくる。それこそが工事そのものを目的化し、事業の効果も影響も二の次にしてきた推進側の無責任な姿勢に他ならない。

 私たちは、工事完了にあたり、改めて営農計画の撤回と水門の開放から始まる抜本的な政策転換を求める。将来にわたって抱えることになる干拓事業の負の遺産から逃れるには、それしかない。
 私たちは有明海と地域社会の真の再生のために、今後も活動を続けていく決意である。

以上