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検証「諫早湾干拓事業」
有明海漁民・市民ネットワーク(ブログ)



諫早湾干拓完工式に対する抗議声明
  ――有明海漁民・市民ネットワーク


 2007年11月20日に行われた諫早湾干拓事業の「完工式」に対し、有明海漁民・市民ネットワークは同日、以下の抗議声明を発表しました。


農林水産大臣 殿
九州農政局長 殿
諌早湾干拓事務所長 殿

諌早湾干拓事業完工式に対する抗議声明

2007年11月20日
有明海漁民・市民ネットワーク

 諌早湾干拓事業は本日完工式を迎える。しかし完工記念式典を主催する貴職は、97年の堤防締切り後に生じた有明海異変と諌干事業の因果関係不存在の証明をはじめとして、漁業権剥奪と農地造成の必要性、営農の技術的経済的可能性、諌干防災効果の限定性と別事業での防災対策の必要性、調整池水質の改善可能性、法定要件を満たさない費用対効果問題、中長期開門調査の意図的サボタージュ、政官業学癒着問題など、私たちが提起してきたあらゆる問題について、納得できる説明責任を一切放棄してきた。そして、どれ一つとして問題を解決することなく、遮二無二工事だけを急いで今日を迎えたのである。諌干以降、毎日漁業被害に苦しめられ続けている私たちは、とても完工を祝う気分にはなれない。こうした漁業者の感情を逆なでするかのように、完工式を執り行おうとする貴職に対し、私たちは大きな憤りをもって抗議するとともに、改めて水門の開放を要求する。

 数え切れないほどの絶滅危惧種だけでなく、わが国では有明海にしか生息しない特産種(23種)・準特産種(40種以上)や、希少種・新種の宝庫だった旧諫早干潟、諫早湾、有明海の生態系は、国内では他に例を見ないほど個性的でユニークなものであり、生物多様性に富むこれら大陸沿岸性遺存種は学術的にきわめて貴重だった。この生態系を今日も日々破壊し続けているのが本事業である。
数多くの魚介類の産卵・揺籃場であり、水質浄化機能にも富む現潮受け堤防の内側にかつて漁業権を有していて、本事業のためにその権利を放棄せざるを得なくなった8漁協の組合員数は、実に953名にも達するが、今となっては、この数だけが旧諌早干潟の生産性の高さを推測させてくれるだけである。既に在りし日の諌早干潟の面影はなく、それに代わって出現したのは、わずか数十軒の営農者のために整備された広大な農地と、当局が「新たな淡水生態系」と呼ぶ調整池である。
ムツゴロウやハイガイなど海洋性生物を惨殺して作り出した「新たな生態系」には、ここ数年、毎年のようにアオコが異常増殖して水面を緑色で覆っているのは誰の目にも明らかなのに、調整池等水質検討委員会では未だに一度も議論されたことがないのは奇異なことですらある。調整池水からは、ミクロシスチン(青酸カリより毒性が強いと言われる)がWHOの飲用水基準をはるかに上回る濃度で検出されたという調査結果もある。まさに従来から漁民が直感的に見抜いてきたように、いまや調整池は文字通りの「毒水」生産工場と化しているのだ。農作物に毒性は残留しないのだろうか。しかも農水省が「工事終了時には目標値を達成できる」としてきたCOD・TN・TPも、河川の水質は改善されたのに調整池では工事が終了した今日に至るも悪化したままであり、これ以上の水質改善への税金投入は児島湖の二の舞になる。懸濁物(SS)濃度が異常に高いというデータもあるが、調整池水をフィルターに通して農業用水に使用した場合は、営農の採算悪化要因となるのもまた確実だろう。
そうした中で農業者に営農を強いるのは、無謀・無責任のそしりを免れまい。ましてや司法判断によって、干拓地の買い取り資金調達の目処も立たなくなれば尚更である。賃貸ではなく農地を購入してまで営農を希望する者はいないと見ているらしい長崎県選出のある事業推進派国会議員は、「せっかく造成した干陸地だから、他の有効な利用法を示せ」と私たちに迫るが、農地以外への転用を禁止している土地改良法に違反した代替案を示すことが出来るはずもない。とすると、工事完成後の干拓地はこのままでは荒れ野として放置され、調整池も無用・有害な存在に堕するだけの運命となる。
そうであれば、水門を開放し調整池に海水を導入することに何ら障害はない。調整池内では水質が一気に改善され、前面堤防前には部分的に干潟やベントスが復活する。諌早湾内では、潮流の半分程度が回復すると見込まれるので、頻発する赤潮や貧酸素が解消され、湾内漁業の復活も大いに期待できる。しかも有明海異変との因果関係解明のための中長期開門調査という、第三者委員会や司法から突きつけられた「国の責務」も同時に果たせるのである。当局が錦の御旗とする背後地の「防災効果」は、開門しても現状と大差はなく、むしろポンプを設置すれば防災効果をさらに大きくすることも可能となる。諌干の効果と背後地住民が信じ込む「防災効果」部分の大半が、実はクリークの拡幅整備やポンプ増強の結果でしかないことは、締切り直後に頻発した湛水災害という事実が雄弁に物語る。
ここ五年間は特措法に基づき、毎年数十億円規模で様々な「再生事業」が実施されてきたが、諌干に手をつけないままの事業だったから漁業被害は年々深刻化する一方である。しかし当局の試算数値から必要分だけを積み上げれば、20数億円の準備工だけで開門は可能となる。役に立たない「再生事業」ではなく、護床工・旧樋門の補修、防潮ネットの設置など水門開放の準備や防災対策にこそ、国民の税金を振り向けるべきではないのか。長崎県民や諌早市民の多数は我々と同意見であるのに、この問題の解決を阻んでいるのは農水省自身と地元の首長や議員である。事態を大局的に見通し、本問題の正しい解決にリーダーシップを発揮できる政治家が待望される所以である。

 工事の終了という区切りのこの機会に、私たちは改めて水門の開放を強く要求するとともに、営農の開始で悲惨な目に遭う農業者を出さぬよう、その前に必ずや水門をこじ開けてみせるという決意をここに表明するものである。

以上