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諫早湾干拓公金訴訟判決、長崎地裁は違法と認めず

 諫早湾干拓農地に対する長崎県の公金支出の差し止めを求めた裁判で、長崎地
裁は2008年1月28日、「問題はあるが違法とまでは言えない」として、原告の訴え
を退ける判決を下しました。以下、その判決骨子と要旨です。

※このテキストは原文をOCRで読み取ったものです。
※原文中の丸付き数字は機種依存文字のため[1]〜[3]の表記に変更しました。

判 決 骨 子

1 原告らの請求の概要

 財団法人長崎県農業振興公社(以下「本件公社」という。)が諌早湾干拓農地(以下「本件干拓農地」という。)を国から一括配分受け入れする事業(以下「本件一括配分受入事業」という。)について,[1]本件一括配分受入事業自体が土地改良法に違反あるいは土地改良法の脱法行為となり,違法である,[2]本件一括配分受入事業に関して長崎県が本件公社に公金を貸し付け,これを回収する方法が地方財政法,地方自治法及び民法に違反して違法である,[3]本件干拓農地においては営農が成立する見込みがなく,公金支出等をすることは予算の効率的な配分を定めた地方財政法,地方自治法に違反する等として,本件一括配分受入事業に関して,公金の支出等の差止め及び支出された公金の返還を求めている。

2 当裁判所の判断の概要

(1) [1]について
 本件一括配分受入事業自体が土地改良法に違反して違法であるという点については,土地改良法の規定自体及びその目的等からみて,本件一括配分受入事業が土地改良法に違反するとは認められない。また,本件一括配分受入事業が土地改良法の脱法行為となる点については,本件公社の現状,長崎県の意図,本件公社の負うべき負担等からして,これを認めることができない。

(2) [2]について
 本件公社が長崎県に対して返済する貸金については,返済期間が長期にわたるという問題はあるものの,回収の可能性は一応あり,違法とまでは言えない。

(3) [3]について
 本件一括配分受入事業に対して公金等を支出することが政策判断として相当であるかどうかということは問題になると考えられるが,それが社会通念上,著しく不相当であって,地方財政法等に違反するとまでは認めることができない。

(4) 以上から,原告らの請求はいずれも認めることができない。


判 決 要 旨

1 原告らの請求の要旨

 本件は,財団法人長崎県農業振興公社(以下「本件公社」という。)が国から国営諌早湾干拓事業によって造成される干拓農地(以下「本件干拓農地」という。)の一括配分を受け入れる事業(以下「本件一括配分受入事業」という。)及びこれに伴う本件公社の体制整備に係る事業(以下「本件体制整備事業」といい,本件一括配分受入事業と併せて「本件各事業」という。)に関し,

(1) 本件一括配分受入事業自体が土地改良法に違反して違法である,より具体的には,
 ア 農地保有合理化法人が干拓地の一括配分を受けることは違法である
 イ 本件公社が本件干拓農地の一括配分を受ける余地がない
 ウ 本件公社が本件干拓農地の一括配分を受けることは土地改良法の脱法行為である,

(2) 長崎県が本件公社に対して本件一括配分受入事業に関して公金を貸し付け,これを回収するために予定している方法が地方財政法,地方自治法及び民法に違反して違法である,

(3) 本件干拓農地においては,営農が成立する見込みがなく,営農を成立させるために将来にわたって長崎県が財政負担を強いられ,仮に営農が成立するとしても長崎県全体の農業に損失をもたらすものであって,地方自治法,地方財政法に違反して違法である
として,被告に対して,本件各事業に関し,公金の支出等の差止めを求めるとともに,長崎県が本件各事業に関し支出した公金を本件公社及び当時の長崎県知事である金子原二郎に返還請求するように求めたものである。

2 当裁判所の判断の要旨

(1) はじめに
 被告は,長崎県の公金支出が相当程度の確実さをもってなされる可能性がない,公金支出以外の差止めを求める行為については,住民監査請求を経ていないとして,本件訴えのうち差止めを求める部分について,却下を求めているが,当裁判所は,本件訴えは,その要件を具備する適法な訴えであると判断した。

(2) 原告の主張(1)について
ア 同アについて
 農地保有合理化法人が干拓地の一括配分を受けることは,土地改良法94条の8 及び同条の8 の2 の各規定及び同法の目的に照らし,違法とは言えない。
イ 同イについて
 本件公社が本件干拓農地の一括配分を受けることについて,本件公社の現状と今後の本件干拓農地に関する事業の進展からすれば,農林水産省が定める農地配分に関する実施要綱に照らして,本件公社が本件干拓農地の一括配分を受ける余地がないとまでは言えない。
ウ 同ウについて
 本件公社が実体のない形式だけの存在であって,本件干拓農地の一括配分を受けるのが実質的には長崎県であると評価できるだけの事実を認めることができないから,本件公社が本件干拓農地の一括配分を受けることが土地改良法の脱法行為であるとまでは言えない。

(3) 原告の主張(2)について
 長崎県が本件公社に貸し付けた資金の回収については,本件干拓農地のリース料によって回収することとなるが,資金回収の期間が長期にわたるという問題点があるものの,本件干拓農地においては,後記(4)のとおり,営農が成立する見込みが一応あり,回収の見込みがある以上,長崎県が予定している貸付けが違法とまでは言えない。

(4) 原告の主張(3)について
 長崎県の公金支出が違法と評価されるのは,合理性を有する判断として許容される限度を超えて裁量権を逸脱・濫用した場合に限られるところ,環境保全型農業特有の経費等の算定やこれまでの干拓農地の実績等に照らせば問題がないとはいえず,資金回収の期間が長期にわたるという問題点があるとしても,本件干拓農地における試験的な栽培結果等からみて,本件干拓農地において営農が成立する見込みが一応ある。また,営農を成立させるための将来にわたる長崎県の負担が生じることは確実といえないから,政策判断として相当であるかどうかということは問題になると考えられるが,本件一括配分受入事業に対する公金の支出等が,社会通念上著しく不相当な点があるなどして,合理性を欠き,違法であるとまでは言えない。

(5) 結論
 以上から,原告の請求はいずれも認めることができない。