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12/25開門調査検討会議へ向けての要請書

 諫早干潟緊急救済本部、同東京事務所、有明海漁民・市民ネットワーク、よみがえれ!有明海訴訟を支援する会などで構成する、有明再生全国ネットでは、12月25日に東京で開催される中・長期開門調査検討会議に下記の要請書を提出します。

 要請書では、12月19日に提出された論点整理案について、現状認識を誤った非科学的な内容であるとし、諫早湾干拓事業の今後のあり方を含め、検討会議で引き続き議論を深め、有明海再生の視点に立って、開門調査の重要性を正当に評価した論点整理を行うことを求めています。


有明海再生に中長期開門調査は不可欠
検討会議は社会的要請を真摯に受け止めよ!
 
●有明海見殺しに加担する「検討会議」の論点整理

 去る12/19に行われた中・長期開門調査検討会議の論点整理案は、まことに不当かつ非科学的な内容であり、「はじめに調査見送りありき」という農水省当局のシナリオに沿った論点整理を私たちはけして許すことはできない。

1. 検討会議は、現状を正しく認識せよ
 まず第一に、現状認識が間違っている。例えば、有明海潮汐振幅減少要因の50%は諫早湾干拓事業(以下、諫干)をはじめとする内部要因であることが大半の研究者の一致した結論であるのに、複合的な要因として片付けられてしまっている。また「諫早湾では、潮受堤防の締切前後で底質の粒度や底生生物に大きな変化は認められていない。」という全く現実の調査結果をねじ曲げたまとめになっている。潮位・潮流や底質の細粒化だけでなく、貧酸素現象や赤潮発生、漁獲量、ノリの作況などあらゆる項目で、現実には諫干の影響と思われる顕著な差が出ているにもかかわらず、そのことに一切触れない欺瞞に満ちた内容である。

2. 検討会議は、開門調査の重要性を正当に評価せよ
 第二に、シミュレーション万能主義に頼った非科学的な不可知論や意図的な論理のすり替え、開門調査で期待される成果の不認識に満ち満ちた内容である。このことの問題性については、これまでの私たちの意見書や研究者共同声明でも述べられている通りであり、繰り返さないが、それらの問題性を十分認識し、「解析から始める調査手法」等においてそのことを明記しなければ、とても公正な論点整理とは言えない。

3. 検討会議は、調査の及ぼす影響と対策について、引き続き十分検討せよ
 第三に、今回農水省当局より、調査の及ぼす影響と対策についての資料が公開された。そもそもこのような資料が委員会終盤になってようやく出されるのも問題であるが、その内容は底泥浚渫や必要排水量、農業用水の確保など至る項目で積算根拠が不明確なものや脅迫的文言ばかりであり、このような極端な前提の元に調査が困難であると結論づけることは到底できない。例えば、既存農地の用水確保は、そもそも調整池に求める計画ではなかったし、周辺に溜池を確保したり背後山間地からの導水で十分確保できる。また新干拓地向けの用水確保は、長期開門調査により新干拓地の造成が事実上不可能になるので不要である。

 検討会議の本来の役割は、これら影響と対策についての検討を十分に行うことであるはずであるが、これらの議論はまだスタートラインについたばかりである。検討会議は、農水省試算を鵜呑みにしたまま12/25の会議をもって最終回とするのではなく、引き続き公正な検討を行うべきである。

 また、論点整理案では現在の気象予報技術を否定した見解が示されているが、高潮や洪水対策のための排水門操作は現在の予報技術でも十分可能であり、殊更に予報技術の限界を強調する姿勢は、現状をねじ曲げた不当な見解と言わざるを得ない。

4. 検討会議は、諫早湾干拓事業が抱える様々な問題を認識せよ
 12/19の会議では、「おわりに」と題して有明海全体の改善に向けた提案を行うことが示された。確かに、有明海全体の再生を視野に入れることは当然であるが、有明海全体の再生を総合的に議論する場は、特措法に基づき環境省に設置された評価委員会の役割であり、いたずらに論旨を拡散させることは諫干問題をぼやけさせるだけである。諫干は、海域環境への影響だけでなく財政や農業問題、防災問題など様々に問題を抱え、既に破綻しているが、検討会議はこうした現状を踏まえた諫干の今後のありようから開門調査の論点整理を行うべきである。

 また、行政経験豊かな有識者による委員会ならば、「自然との共生」や「自然再生」が叫ばれる今日的観点から、今後の農水及び環境行政についての指針を、論点整理を通じて示していただきたい。
なお、調整池の水質改善が話題になったが、佐々木論文や研究者共同声明にもあるように、開門による海水導入こそが最も効果的な対策であることが短期開門調査でも実証されたことを改めて指摘したい。

● 中・長期開門調査の実施は、けして困難なことではない!
 〜有明海再生のために開門調査の早期完全実施を!〜

 中・長期開門調査の実施にあたって、関係者(特に現場の生活者)の理解を得ることが欠かせないが、中でも深刻な漁業被害に苦しみ続ける有明海沿岸漁業者の理解を得ることが絶対条件であることは言うまでもない。佐賀・福岡・熊本の3県では開門調査を求める議会決議が次々と採択され(特に佐賀県では県内自治体の約半数が開門調査を求める意見書を採択している)、今や有明海沿岸地域全体の社会問題となっているのである。

 一方、長崎県は、諫干の早期完成を求めて開門調査に反対しているが、その論拠に正当性はない。有明海再生のためには中・長期開門調査は必須であるが、諫干は必要性も妥当性もない破綻事業である。もちろん諫早湾背後地の防災は重要であるが、今回農水省が示した対策案を正確に検討していけば、こちらも実現可能であり、既存干拓地住民にとっても十分納得のいくもののはずである。また、開門当初は漁場環境の更なる悪化が進行するであろうが、長期開門によって環境の好転が望めることを考えれば、この悪化した現状のままでいるよりも漁場環境面でもはるかに良い。つまり、有明海沿岸の社会的損失額に比べれば、調査に関わる対策費や補償費用はけして多額ではなく、農水省の責任で実施すべき性格のものである。

 それにも拘わらず、開門調査の実施が困難であるという論点整理が行われるならば、それは著しく公平性を欠いた結論であり、検討会議は有明海見殺しを容認した農水省御用機関と言わざるを得ない。言い換えると、検討会議にはそれだけの社会的責任があるのである。

 そして、もしもこのまま開門調査が行われないならば、諫干と有明海異変との因果関係を巡る議論は永遠に終わることはなく(法廷での決着となる)、また有明海の再生もなく、ただただ漁民が死に絶えていくばかりである。検討会議が農水省御用機関に終わることは、有明海見殺しの責任の一翼を担うことになるのだということを十分認識していただき、検討会議の最終報告が社会の要請にしっかり応えた真摯な内容となることを切に祈るばかりである。

2003年12月24日

有明再生全国ネット
  有明海漁民・市民ネットワーク
  よみがえれ!有明海訴訟を支援する会
  諫早干潟緊急救済本部
  諫早干潟緊急救済東京事務所


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