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「開門調査見送りの根拠に合理性なし」
漁民・市民ネットの緊急声明

 有明海漁民・市民ネットワークは4月26日に、中・長期開門調査見送り方針の撤回を求める以下の声明を発表しました。


2004年4月26日
有明海漁民・市民ネットワーク

中・長期開門調査見送りの農水省方針案の撤回を求める緊急声明

 有明海沿岸漁民をはじめ福岡・佐賀・熊本県当局及び3県議会や市町村議会、さらには全国の研究者・専門家や市民など各界各層から強い要望が寄せられていた諫早湾干拓の中・長期開門調査について、農水省は去る22日、3県漁連幹部を福岡市に招集してその「見送り方針案」を内示したと伝えられている。
 翌23日、「公共事業チェック議員の会」の立ち会いのもとで行った私たちと農水省担当者との公開交渉の席上で確認したところ、22日の漁連との話し合いで根拠として説明したのは「濁りの拡散懸念があり、その対策に630億円と長期間を要する」点のみであるとのことであった。そこで私たちは以下に、この点に絞っての批判を行うこととする。
 
1)「濁りの拡散懸念」は、あくまでも「懸念」でしかない。農水省は、短期開門調査中に諫早湾内で濁度が900mg/lにも達して小長井漁協などのアサリ養殖に被害を与えたと国会答弁を行ったが、900という高い数値が観測されたのは海水導入3日後の北部排水門直前のS1調査ポイントであり(短期開門調査報告書)、この調整池からの濁りは海水導入後1週間で急速に減少した。アサリ被害のあった時期は明らかではないが、小長井などの漁場周辺のS12調査ポイントでは、開門調査中は2.4〜17.2mg/lという平常値しか観測されていないのであって(九州農政局ホームページ観測結果速報値)、これは欺瞞的な答弁と言わざるをえない。

2)海水導入後3〜7日間という僅かの期間で濁りが減少したのは、海水中に含まれる塩素イオンと凝集反応を起こしたからであり、中長期開門調査では、この凝集効果を効果的に利用すべきである。すなわち開門当初は徐々に海水を入れ、凝集反応で調整池の濁りを減少させてから少量ずつ徐々に排水するという慎重な開門操作を行えば、濁りの海域への拡散を最小限にくい止めることは可能である。こうして調整池に一定の海水が入れば、その後は常時全開にしてもひどい濁りは発生しない。しかるに農水省は、開門当初からの常時全開を想定し、排水門周辺に最大7.3m/sの急流が発生するという簡単な流速シミュレーション結果のみを根拠にして、洗掘や濁りの巻き上げを前提し、もって「調査に伴う新たな漁業被害」を誇大宣伝しているに過ぎない。短期開門調査時には事前に濁りの程度までをも予測し、湾内漁民に説明をしていたにもかかわらず、中長期ではどの程度の濁りが発生し、それが海域のどこまで拡散するかの本格的なシミュレーションは一切していないのである。それにもかかわらず、「懸念」のみを強調する態度は公正とは言えない。

3)23日の交渉では、農水省は短期開門調査時に排水門周辺の流速すら測定していなかったことも明らかになった。事前の流速シミュレーションが正しかったかどうかの検証を行い、中長期における流速予測に役立てようとしない態度は科学的とは言えない。中長期の常時全開では、農水省の言う7.3m/sではなく、高々4.2m/s程度ではないかという試算もあるので、流速や濁りの拡散状況については、第三者が客観的なシミュレーションを行うべきである。

4)護床工を施していない排水門周辺の流速が1.6m/sを越えると洗掘が生じるという農水省の主張が仮に正しいとしても、そのために630億円の大部分を構成する「浚渫」を行ったり「護床工の拡張・作り直し」を行う必要性は全くない。上述のような凝集効果を利用する開門操作を行えば浚渫は不要であり、また海底に簡単な捨て石工を施すだけで洗掘は防止可能だからある。

5)したがって中長期開門調査には、630億円の費用と3年もの準備期間を要するので「調査は困難で現実的でない」とする農水省の見送り方針案の根拠には、微塵の合理性もないことは明らかであり、私たちは同方針案の撤回と中長期開門調査の実施を強く要求する。

以上


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