諫早湾干拓事業について 県議会一般質問

98年9月25日県議会本会議

(質問)中田晋介県議
(答弁)金子原二郎知事、木村道夫水産部長、白浜重晴農林部長


(質問・中田県議)諫早湾干拓について質問いたします。知事は「見える県政」を選挙で公約し、三月議会ではその内容について「施策の内容や事業実施の過程、将来にたいする取り組みなど、正確な情報を県民に広く公開し、県民が県政を身近なものとしてわかっていただけること」と示し、そのため「政策形成過程を含め、それぞれの事業の内容や投資対効果などについても正確な情報を積極的に提供し、事業の検討段階から多くの県民の皆様にオープンな議論に参加していただくガラス張りの県政を実現する」と県政の基本として示しました。その約束された事業の将来、あるいは投資対効果などの正確な情報がいちばん示されずに事業が強行されているのがこの諫早湾干拓事業であります。
 第一に、知事が約束された「投資対効果の検討」でありますが、この干拓事業は土地改良法にもとづいて進められており、同法施行令第二条では「土地改良事業の施行に関する要件」があげられており、その一つとして「すべての効果がすべての費用をつぐなうこと」すなわち、投資対効果の算定で効果が費用を上回ることが事業の要件になっております。農林水産省によるその算定は1987年九州農政局の「国営干拓事業・諫早湾地区全体実施計画書」で行われていますが、年間の経済効果として作物生産効果が26億4千万円、国土造成効果が14億7千8百万円、災害防止効果が40億4千万円、そのほか4億9千9百万円で、これから堤防、排水門の維持管理費など1億4千5百万円を引いた年間増加純益額が85億1千2百万円で、これを資本還元率0・06148で割って得た妥当投資額1385億円が総事業費1350億円をわずかに上回り、投資効果1・026つまり百点以上合格のところを103点あったからと「本事業計画は経済性から見て妥当なものと認められる」としています。
 しかしその後費用はどんどん膨れ上がりいまでは倍近くの2370億円になっています。その理由は北部排水門の増設など技術的な変更と、資材費人件費の増加であって、効果の増大にはつながるものではありません。そのまま計算すればいまでは投資効率は0・583つまり百点満点で58点しかなく、明らかに法律の要件を満たしていません。
 農水省の計算方式は、災害防止効果を過大に見積もったり、干潟の浄化機能の経済的損失やそのために必要になる下水道の高次処理費用の増加などがはいうていないなど大きな欠陥があると思っていますが、かりに、そのままのやりかたで計算しても法律的に失格で、まさに税金のムダづかいの典型になっています。私はこの点をあいまいにしたまま事業を続けることは、許されないと思います。
 農水省も本年度から、長期にわたる事業について見直し再評価をはじめています。内部堤防、農地造成の本格着工のまえに再評価を行い、県民に情報を提供することは「見える県政」をかかげる知事のかかせない責任ではありませんか。知事の見解を質問します。
 第二に、知事は「事業の検討段階から、事業の内容、事業の将来をしめす」といいますがこの諫早湾干拓では、営農計画について、十年前の計画があるだけで、作り替えるといわれながら示されないままです。農業情勢が厳しいなか、県下にはこの干拓でつくられる3・3倍5千4百ヘクタールの農地が耕作されずに遊んでいる。そんな時に何をつくるために必要な農地なのか、何をつくって経営が成り立つのか。まず示されなければなりません。これから「営農構想検討委員会」て検討して結論が出るのは二年後というのは順序が逆ではありませんか。
 第三に、干拓地周辺で赤潮が発生し漁業に被害が出ており、長崎大学の調査では、低酸素水塊すなわち青潮の広がりも観測されています。アサリ養殖で大きな被害を受けた漁民は「こんなことははじめてで、干拓排水門からの排水が原因に違いない」といっています。
 その因果関係について専門家による調査を行い、干拓の影響が明らかになれば当然補償する必要がありますが、知事の見解をうかがいます。

(答弁・金子知事)諫早湾干拓についてのおたずねでございますが、国営諫早湾干拓事業は、事業主体である農林水産省が昭和61年度に決定した事業計画のなかで、事業効果が費用を上回っていることを確認したうえで着手されたものであります。その後の工法変更、物価変動により、総事業費は増加しておりますが、事業効果算定の基礎となる要因のなかには、例えば災害防止効果のように資産の数量や評価額などが上昇しているものもあります。いずれにいたしましても、現時点での「費用対効果」につきましては、事業主体である国において検討作業が行われております。
 干拓事業は、意欲ある農業者が自由にその手腕を発揮できる平坦で大規模な優良農地を確保し、21世紀の本県農業を切り開くとともに、すでに効果を発揮している地域の総合的な防災事業として本県にとって重要なプロジェクトであります。県としましても今後とも関係国会議員や県議会のご支援をいただきながら関係市町、議会、農業団体とも連絡をとりあいながら、一日も早い,事業の完成に向けて国に対し要望をしてまいりたいと考えております。
 つぎに諫早湾干拓の営農構想についてのおたずねであります。国営諫早湾干拓事業は昭和61年度に決定した事業計画にもとづいて進められているところでありますが、営農および土地利用計画についても、この事業計画のなかでさだめられています。本事業は本年度で潮受け堤防が完成し内部堤防工事、地区内整備が今後本格化してまいりますが、造成される干拓農地は、今後国が策定する土地配分計画にもとづいて農家に配分されることとなっており、国はその計画策定にさきだち、県にたいし意見を求めてくることになります。このようなことから、県としては現行の営農計画に加え、その後の農業情勢等の変化などもふまえて検討が必要であるとして従来から作業を続けてきたところでありますが、今回とくに学識経験者、地元農家等の意見を広くとりいれ検討するために「諫早湾干拓営農構想検討委員会」を新たに設けることにしたものであります。今後、県としての営農、土地利用に関する構想を平成十一年度を目標に取りまとめたいと考えております。

(答弁・木村水産部長)諫早湾の赤潮・青潮に関するご質問でございますが、今年の七月中旬に有明海の全域で魚類に大変有害なプランクトンによります赤潮が広範囲に発生いたしまして、とくに小長井町の沿岸ではスズキ、ボラなと天然魚や養殖アサリが大量にへい死をするという現象が発生いたしました。ただちに県総合水産試験場を中心といたしまして、状況の把握につとめまして関係者への情報の提供と養殖業者への対策の指導といったことを対応したところでございます。今回の赤潮は有明海のほぼ全域で発生しており、また本県側の赤潮の分布は、当初諫早湾外で確認されましたことなどから、赤潮の発生と諫早湾干拓事業との関係はなかったものというふうに判断しております。今後とも総合水産試験場を中心に常時観測体制をもって赤潮の監視をおこない、熊本、佐賀、福岡などの研究機関等とも連絡体制をを強化しなが発生監視にあたってまいりたいと存じております。それから青潮についてでございますけれども、これが諫早湾で発生したとの長崎大学の研究グループの報告は承知いたしておりますけれども、同じ海域で総合水産試験場も二か年にわたって水質調査を継続しておりまして、その水質調査のなかではそういう現象は確認されませんでしたし、青潮が発生すれば漁民の目にも確認されるわけでありまして、そういう漁業者からの通報もなかったということでありまして、諫早湾で青潮というのは常時発生するものではないというふうに判断しておりますが、こんごの海域の監視体制のなかで十分注意してまいりたいと存じております。

(質問・中田県議)諫早湾干拓の「投資対効果」の見直しについて知事は、国において見直しが検討されていると答弁されましたが、農水省の本年度の再評価の対象には入っておりません。本年度から農林水産省が公共事業の再評価制度をとりいれまして、いくつかの長期にわたる事業については再評価の作業をはじめていますが、諫早湾干拓事業についてはそのなかに入っておりません。あとまわしになっています。さきほど申し上げましたように、この事業の「投資対効果」については、農林水産省のやりかたで計算しても重大な疑義が生まれています。それをそのままにしておいて工事だけを進めていいのかといっているのであります。再評価の制度を取り入れたのならば、真っ先にそれで検討すべきなのがこの諫早湾干拓ではないのか。税金のムダづかいではないかという全国的な批判をあびとるのですから。そういう意味で私は県が農林水産省にたいして最初に再評価を行えともとめるべきで、いまのままではつじつまが合わない。県としても330億円の県費を注ぎ込むならばその前に明かにせよと求めているのであります。
 それから営農構想について知事は国の事業計画のなかで決められていると答弁されましたが、じつはこの点について重大な発言があります。今年の七月まで九州農政局の局長であった菱沼毅さん、今では前局長でありますが、この方が昨年の五月十五日、あの堤防締め切り後で事業が世論の大きな注目を集めていた時期に、朝日新聞の紙上で編集委員と対談をやった記事があります。このなかで菱沼九州農政局長は「当初の営農計画はあるが、あんなものを今出したら笑われるので見直している。時代の変化にあった品目や営農方法をモデル的に早く示したい」とこういうふうにいっとりますよ。この発言は県もご承知だと思いますが、営農構想をつくった農林水産省がみずから、あんなものを今だしたら笑われる、というぐらい破綻をした営農計画じゃありませんか。そうであれば、いよいよこれから内部堤防と農地造成が本格的に始まるこの時期にその営農計画を、モデルも含めてほっきりと示す責任があるのじゃありませんか。どうですか。それを今から二年後に示したって、もう工事は終わってしまって間にあわんじゃありませんか。

(答弁・知事)営農計画につきましては、再三私がご説明しているとおりでございます。時代がいろいろ変わってきた、したがって時代にあったものを今後考えていかなきゃいかんということで、こんど検討委員会をつくらしていただいたんですね。そこの中で今から議論していくわけですから、今からやったからといって1年ですぐできるものではないし、やっぱり、いろんな状況を考えながらやっていきますとどうしても二年間はかかるということでございます。まあそれぞれの立場でそれぞれの主張をするわけでございまして、我々はこういった形でやるということでご答弁さしていただきます。

(質問・中田県議)それぞれの主張といわれますが、やはり知事は道理のとおった立場でやってもらわないとついていく県民がひどい目にあいます。これから農地がどんどんできていくのに、そこで何をつくれば採算が合うのか、いったい何がほんとにできるのか、営農計画がたたなければまったくわからないじゃありませんか。いまあるのは、そんなもの出したら笑われるという破綻したものしかない。それをきちんと示さないと農地が出来上がってから、採算が合わない、つくるものが見つからないとなったら、どうなるんですか。
 そういった点をはっきり県民に示して進めるのが、知事が選挙で公約をし三月議会で県政の基本としてかかげた「見える県政、県民にわかりやすい県政」の基本じゃないんですか。目的も示せないまま事業を進めるのはさかさまじゃないか、といっとるんですよ。どうでしょうか。

(答弁・白浜農林部長)知事が県民に開かれた「見える県政」ということを公約いたしておりますけれども、この検討委員会のなかやまた地域の研究会を設けますが、これは農民の現場の声を汲み上げて県政を進めるという知事の意向もふまえまして、こういう組織をつくったのでございます。

(質問・中田県議)私は、事業は進めながら声はきくからいいというものではないと思います。事業を進める前に、事業の目的と見通しをきちんと示してこそ見える県政であり、県民に責任を持つ県政だといえると思います。国も県も破綻した営農計画しか示せない事業は中止して県民的な再検討をすべきだと要求します。。また、赤潮やアサリの被害については、漁民の皆さんは干拓排水の影響だとみんな思っています。昨年締め切られて汚れた排水が出るようになってからこんな事態がおこるようになったといっています。専門家などによる公正で科学的な調査と、それにもとづく被害を受けた漁民への救済と補償をつよく求めておきます。


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