1998年12月5〜6日、名古屋の吹上ホールで開催された、国際湿地シンポジウム'98藤前で採択された宣言です。


藤前宣言

 21世紀を前に、日本や韓国の湿地、とりわけそれぞれの国の湿地を代表する干潟は、消滅と破壊の大きな打撃を受けようとしている。

 わたしたちは、1999年5月にコスタリカのサンホセで開催される第7回ラムサール条約締約国会議を半年後にひかえた12月5日、6日の二日間、諫早湾干潟とならんで日本の乱開発の象徴となった藤前干潟に集い、コスタリカ、アメリカ、韓国からの海外ゲストを交え、ラムサール条約のもとで日本の果たすべき役割について話し合い、国際的な視野から日本、韓国の東アジアの湿地の危機的現状をみつめ、これを打開する方策を模索した。日本湿地ネットワーク代表の山下弘文氏が1998年のゴールドマン賞を受賞したことに象徴されるように、東アジアの湿地保全はいまや国際的な関心事である。

 干潟をはじめとした日本と韓国の湿地破壊の元凶は、いずれも大規模開発に偏重した過剰な公共事業である。巨額の費用が投じられる公共事業は、干潟をはじめとした湿地を破壊しながら、必要性や投資効果に疑問があるにもかかわらず、暴走している。日本や韓国の公共事業は、科学的な環境影響評価や事業評価が不徹底で、十分な情報も公開されず、決定過程に市民の声は反映されない。いったん着工されると、必要性や合理性に変化が生じても見直しをする制度的な保障はない。こうした不合理な公共事業による乱開発の背後にあるのは、建設・土木に偏重した経済システムであり、これによって利権をむさぼろうとする政・官・財の癒着構造である。こうした公共事業のあり方が是正されない限り、日本と韓国の湿地および両国の人々の豊かでうるおいのある生活に未来はない。

 湿地の保全と賢明な利用は、政府・NGO・研究者団体・企業の協力なしには達成できない。
 我々は、こうした協力関係が実現していない日本と韓国の湿地が、公共事業の乱開発によって大規模に破壊されていることを知った。シンポジウムに参加した韓国のゲストによれば、韓国においては400km2もの膨大な埋立計画が進行中である。アメリカやコスタリカのゲストによれば、東アジアで起きている湿地破壊は全世界に共通しており、これまで十分な力を持たなかったNGOや地域住民が政府や企業と協力関係を作り上げ、湿地の保全と賢明な利用を実現する上で指導的な役割を果たすことが重要である。

 第7回ラムサール条約締約国会議のテーマは「人々と湿地ー命のつながり」である。わたしたちは、ラムサール条約事務局と常設委員会がこのテーマを掲げたことを歓迎する。このテーマの実現は、政府・NGO・地域住民・科学者の連携と協力があってはじめて可能になる。わたしたちは、日本と韓国の現状を踏まえ、このことを締約国会議に先立つNGO会議で明らかにし、締約国会議に提言することを希望する。

 日本最大の干潟である諌早湾干潟を一気に消滅させる諌早湾干拓事業とともに、日本を代表するシギ・チドリ類の渡来地である藤前干潟のゴミ埋立は、日本における公共事業による乱開発の典型であり、その行方は、今後、日本の湿地が破壊から保全へと転換することができるか否かを大きく左右する。
 人口の密集した東アジアのなかにあって、とりわけ都市化のすすんだ地域で機能しつづけている藤前干潟は、日本のみならず、人と湿地の命のつながりをとりもどすための国際的シンボルであり、ラムサール条約が東アジアの人口密集地や都市化された地域においても十分に機能しうるか否かの行方を決定する世界の試金石である。
 わたしたちは、名古屋市に対し、ただちに藤前干潟のゴミ埋立を中止して代替案を真剣に検討することを求めるとともに、次期締約国会議が、諫早問題とともに、藤前問題解決のためのイニシアチブを執ることを求める。そして、日本政府に対しては、公共事業の硬直したあり方を一刻も早く是正し、当面する緊急課題として、諫早湾の水門の開放と藤前干潟のゴミ埋立中止のための措置を執ることを求める。

 わたしたちは、それぞれの地域における湿地破壊の脅威に対抗し、全力でそれぞれの地域における湿地の賢明な利用のあり方を追求するとともに、「人と自然ー命のつながり」をテーマに掲げた第7回ラムサール条約締約国会議において、地域住民や先住民が経験を交流し、湿地保全のための新たな国際交流のネットワークを構築することができるよう、全力を尽くす決意である。
 以上、宣言する。

    1998年12月6日
国際湿地シンポジウム'98藤前


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