排水樋門の解放により、流速が最大8mになり堤防外漁業に悪影響が生じるというが、これもおかしい。急速に進んでいる調整地水質悪化は科学技術では止めることができない。淡水化した膨大な汚染水が反時計回りの潮流に乗って島原半島沿岸部を洗うとアサリ、アサクサノリ、ワカメなどの養殖漁業に大きな影響が出る。1970年、諫早湾のアサクサノリやモガイから最大14ppmのカドミウムが検出され漁業者は大きな影響を受けたが、この除去はきれいな海水による自然の浄化能力に任せざるを得なかった。

 潮を入れることにより、堤防前面の海底はえぐられるが影響は少ない。湾が狭くなったとき、堤防内部の海底は大きくえぐられたが、きれいな潮が入ることにより、工事で発生したヘドロが流され、外では殆ど見られなくなったタイラギが発生した。本来、潮流の速い場所は優良な漁場であることは常識である。どちらが賢明な方法かは明らかだろう。

 農水省は既設堤防の嵩上げを否定しているが、建設省は諫早湾より困難な湾奥部佐賀、福岡で高潮対策のために既設堤防を7.5mまで緩傾斜堤防による嵩上げ工事を行っている。 既設堤防嵩上げと地先干拓を併用することにより排水も容易になることは明らかである。  干拓工事により生物が死滅することは当たり前である。しかし、堤防前面に干潟が造成されることにより生物への影響は少なくなる。現に今回の工事でできた小江干拓の周囲はムツゴロウが最も生育する干潟となっている。

 締め切り後、大雨による防災効果が直接試されることになった。農水大臣は防災効果があったと胸を張ったが、実態はどうだったか。5月13日から14日にかけ諫早地方に大雨が降った。総降雨量は151mm。アメダスの資料では小野地区一帯は20〜30mm程度の降雨だった。最も多かったのは五家原岳で200mmを越えていたが、小野地区など低地帯とはほとんど関係がない。この程度の雨で畑の冠水は最大水深94cmに達した。また、床上浸水を経験したことがない地域で床上浸水が起こり数十万円の被害を出した。調整地の水位は年2回程度の大潮満潮時の水位と同程度になった。この水害に対して農水省は、平成2年の降雨時のデータと比較し、効果大と主張したが決定的な誤りを犯していた。それは平成2年には完成していなかった4基の排水機場、毎秒15tを考慮に入れていなかったことである。これでは締め切りの効果か、排水機場が増設された効果か判定ができない。

 7月10日前後にも大雨が降った。この時は小野、森山干拓地を中心に約2020haが冠水し、決して起こらないはずの床上・床下浸水も諌早市の発表ですら、それぞれ4軒、66軒発生したという(実際の被害はまだ多かった)。

 7月22日、内閣は諫早湾を考える議員の会へ、初めて閣議決定を経た答弁書を公表した。政府の公式の考え方である。これによると水門を開けない理由はただ2つ、調整地をかんがい用水として使用すること、防災機能を適切に発揮させるためであるという。

 同じ答弁書で、政府は問題となっている諫早大水害の原因となった本明川の防災について「建設省の工事実施基本計画は、本明川の洪水、高潮等による災害の発生防止という目的を達成できるよう策定しており、潮受堤防の存在を前提としているものではない」と述べ、干拓事業と災害防止は関係ないことを明らかにした。

 この問題を「ムツゴロウか人間か」という低レベルで議論することは、国際社会では恥さらしの何物でもない。問題解決の道は250mmの排水樋門を解放して干潟を回復させ、膨大な国税を使うこの事業を、地先干拓と既設堤防改修を中心に事業の見直しを行うことだ。

(イサハヤ干潟通信第3号より)


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