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宛  先:環境省水・大気環境局水環境課閉鎖性海域対策室内
     有明海・八代海総合調査評価委員会事務局あて
氏  名:有明海漁民・市民ネットワーク 事務局長 菅波 完

意見:
<該当箇所> 報告書全般、特に、4章 問題点とその原因・要因の考察 
       および 5章 再生への取り組み について


1.今回示された委員会報告案には、これまで整理されていなかった重要な科
  学的知見が含まれており、その点については、評価委員会を通じた様々な
  調査分析活動の成果として敬意を表する。


2.しかし、報告書の肝心な部分では、せっかく得られた重要な科学的知見が、
  特に諫早湾干拓事業の影響に関わる部分で、正当に評価されず、むしろ意
  図的に無視されており、全体としては、政治的な力でゆがめられたものと
  言わざるを得ない。

  委員会の社会的な使命は、「有明海異変」といわれる近年の深刻な海域環
  境の悪化についての分析と、今後の再生への方向性を示すことであり、本
  来、諫早湾干拓事業の問題は避けては通れないはずであった。
  委員の中には、諫早湾干拓事業の問題を正面から取り上げようとする努力
  もみられたが、残念ながら最終的な報告書には反映されなかった。

  結論として、この報告書における問題の分析は的はずれであり、再生の方
  策も場当たり的なものに過ぎない。


3.報告書における個別の分析などについての意見は、すでに良識ある研究者
  等から具体的に指摘されているので、私たちからは、評価委員会の全体的
  な姿勢について意見する。

(1) 問題の所在をはき違えている。もしくはあえて問題から目をそらしている。

  有明海・八代海の漁業は、1970年代をピークに、その後は不振が続き、ま
  た、年を追うごとに深刻化している。
  しかし、この委員会で検討すべき問題の中心は、1990年代以降の急激な海
  域環境の悪化である。

  報告書案では、70年代から80年代頃の環境悪化要因等が無闇にとりあげら
  れ、最近の問題の分析があいまいにされている。

(2) 科学的な分析から有効な対策を導こうという論理性が欠如している。

  変化や影響の兆候を示すデータと、示していないデータがあれば、示して
  いるデータを重視することこそが科学的な姿勢ではないか。
  特に、諫早湾干拓事業の影響に関わる問題になると、影響を示す実測デー
  タよりも、影響を示さないシミュレーションを重視したり、あるいは、影
  響を示さないシミュレーションが反証とされ、両論併記とされることに違
  和感を感じる。
  しかも、諫早湾干拓事業の影響が取りざたされている問題について、影響
  は断定できないとしても、それに代わる要因が不明確である。
  科学的に厳密な議論を求めて、結局、よく分からない、と言う結論しか出
  させないとすれば、委員会としての責任放棄である。
得られたデータなどから、最も影響の疑われるものは何かを委員会の責任
において判断すべきである。

(3) この期に及んで場当たり的な対策を無秩序に進めようとしている。

  影響の評価については、極めて慎重でありながら、覆砂や海底耕耘、人工
  干潟の研究などについては、実証試験などと称しながら、着々と進めよう
  としている。
  この様な個別技術で有明海全体の問題が解決されるのか、社会的な費用は
  妥当なのか、といった点を検証しないまま、不確実な再生技術に取り組む
  ことは、問題点の検討をうやむやにし、本質的な解決を遅らせるだけでは
  ないか。
  さらに言えば、無秩序な再生事業自体が目的化し、新たな利権構造が発生
  しているのではないか。

(4) 委員会の運営についての反省が必要ではないか。

  今後の取り組み体制についての記述では、いまだに「これまでの調査研究
  成果の体系的な整理」や「調査のマスタープラン作成」があげられている。
  委員会が膨大な時間をかけてやってきたのが、「調査研究成果の体系的な
  整理」であり、私たちが当初から提起してきたにもかかわらず、結局実現
  しなかったのが「マスタープランの作成」ではないか。
  有明海の漁業は、まさに明日が見えないギリギリの状況に追い込まれてい
  るというのに、委員会はまさに惰性で運営され、また、今後も同じような
  ことを繰り返そうとしているのではないか。
  委員会は何を目指し、何ができたのか、また、何はできなかったのか。そ
  の理由は何かと言うことを、真剣に自己分析する必要があるのではないか。


4.この委員会で明らかにされたことを含め、有明海問題に関わる様々な研究
  成果から総合的に考えれば、1990年頃から特に顕著になってきた有明海の
  環境悪化の要因として最も有力なのは、諫早湾干拓事業による諫早湾の閉
  め切りである。
  
  したがって、有明海再生の方向性としては、諫早湾閉め切りの影響をどの
  様に原状回復するか、と言うことにつきるわけであり、ノリ第三者委員会
  が指摘した、中・長期にわたる開門調査の実施を第一歩とし、将来的には、
  排水門の拡大から潮受堤防の撤去などを展望すべきである。
 
  よって、報告書の、特に「4章 問題点とその原因・要因の考察」および
  「5章 再生への取り組み」は、上記の観点から全面的に書き直されるべ
  きであるというのが、私たちの意見である。

                                 以上


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